世界一の人口を抱え、急速に経済成長するインド。今回は現在インド事業を取り仕切る安藤副支配人と、現地で大手企業営業を担当するネサールジェネラルマネージャー(以下GM)にダイキンのこれまでのインドでの軌跡と今後の展望をお伺いしました。
▶今回お話を伺った方
・安藤 省吾(あんどう しょうご)さん
ダイキン工業専任役員(インド)在勤
グローバル戦略本部 空調インド・アフリカ地域 副支配人
ダイキンエアコンディショニングインド社 取締役副社長 委嘱
入社時より国際営業本部へ配属され、香港、ベルギー、イギリス、タイ、マレーシアでの
駐在経験 を経て2023年よりダイキンエアコンディショニングインド社の取締役副社長と
してインド・アフリカビジネスを牽引
・Nesar Khan(ネサール カーン) さん
ダイキンエアコンディショニングインド 日系アカウント営業部長
ネール大学で日本語を学び、2006年に立ち上げ当初のダイキンエアコンディショニングインド社へ就職。入社当初は技術を担当し、2010年より大手日系企業の営業担当としてインド国内に留まらず国際的に活躍
空気だより:
今回は、海外経験豊富な安藤副支配人とネサールGMにインドでのビジネス成功の秘訣や秘話をお聞きしたいと思います。まず初めに、ダイキンがインドへ進出したきっかけとインドでの事業展開の道のりを教えていただけますか。
安藤副支配人:
ダイキンがインドへ初めて進出したのは2000年です。当時から人口の多さから魅力的なマーケットだと見ていましたが、当時は細々と日本やタイからの輸出ビジネスをやっていました。
ダイキンインドが大きく変わったのはインドに本格的に参入を決め完全にダイキン工業の子会社化、2009年にニムラナ工場を設立してからです。
その頃はアセアン地域が非常に好調でダイキンとしてインドへ投資をする余力があったことから、人・モノ・カネを一機に投じて垂直立ち上げを行いました。
それも当時の経営層の先見の明と強いリーダーシップがあったからこそと考えています。
空調専業メーカーとしての他地域でのノウハウを参考に、まずは赤字でもダイキンのマーケットを作っていくのだと強い意思の元、圧倒的な販売網を築き上げてきました。
ネサールは2006年入社だから当時のダイキンインドのことをよく知っているよね。
ネサールは日本語も日本人同様に読み書きできるしね。
ネサールGM:
そうですね。私は兄の影響を受け、ネール大学で日本語を学んでいました。
私が入社した当時は、ダイキンはまだインドでは無名で、社員の数も今よりもずっと少ない赤字会社でした。しかし、私は当時からダイキンはインドで大成功すると信じていましたよ!
ダイキンインド売上高の推移
出展『ダイキンタイムス』
空気だより:インドでビジネス参入されようとしている企業様も多いかと思いますが、ビジネスを成功させるコツなどあれば教えていただけますか。
安藤副支配人:
インドビジネスを成功させるコツはインド現地の良いパートナーを見つけることだと思います。また、思い切ってローカルのメンバーに仕事を任せることも重要です。ネサールのように活躍してくれる現地人がインドには多くいますよ。
ネサールGM:ありがとうございます。安藤副支配人はよくわかっていますね(笑)
空気だより:ところで、ネサールGMから見て日本はインドにとって良いパートナーとなり得ますか。日本をよく知っておられるネサールさんに日本人の特性も含めて教えていただけますか。
ネサールGM:
日本はインドにとって非常に良いパートナーになると思います。
両国の文化や価値観の違いを理解し、お互いの強みを活かすことが成功の鍵になります。
すでに多くの日本企業がインド市場に参入していますが、より深いパートナーシップを築く為には、柔軟にインド流のビジネスタイルを受け入れることが鍵になると思います。
日本は高度な技術力と品質管理が強みです。一方、インドはITや数学の強みを持ち、若くて成長意欲のある人材が豊富です。
日本の精密なものづくりと、インドのソフトウェア・デジタル技術の融合でより可能性は拡大すると考えます。
また、日本人は真面目で几帳面、規律を重んじる文化がある。一方で、インドは柔軟で創造的、即興的な解決策を見つける力がある。
この違いは、時に衝突を生むこともありますが、うまく組み合わせれば互いに補い合うことができます。
例えば、日本人の計画性とインド人の臨機応変な対応力が合わさると、柔軟かつ精度の高いプロジェクトが生まれる可能性があると考えます。
空気だより:有難うございます。非常によくインド人と日本人の性質の違いをとらえられていますね。
空気だより:安藤副支配人はインドビジネスを展開する中でインド人ローカルとのコミュニケーションの取り方で困ったことや課題に感じたことはありましたか?
安藤副支配人:
たくさんありますよ。(笑) 基本的にはインド人は親日的で仕事熱心ですが、納期管理や仕事の品質の低さには驚かされることもよくあります。
ただ、心掛けていることは、常に相手をリスペクトし、真摯に嘘をつかずに丁寧に接しています。この姿勢は世界のどこでも通じると考えていて、リスペクトを持って真摯に向き合えば人はリスペクトを返してくれます。
ネサールGM:
安藤副支配人は海外でのビジネス経験が豊富で大きな夢をお持ちでエネルギッシュなところを私もとても尊敬しています。
また、大きな仕事も思い切って私に任せてくれていることも嬉しく思っています。インド人の傾向として、経験値を重視する文化があります。インド人の納期管理は日本人の感覚とは全く違うので、大きなビジョンを示しつつ、小刻みにマイクロマネジメントを行っていくのがコツです(笑)
空気だより:お二人とも苦労されているのですね。少し話は変わりますが、急速に発展するインド市場の需要に追いつく為にダイキンインドではどのように人材育成や教育に取り組まれてきましたか?
安藤副支配人:
ダイキンの空調機を拡販していく上で圧倒的に不足しているのがサービスエンジニアです。
人材の技術面のスキル育成を目的として2017年に空調の製造分野の専門家及び技術者を育成する日本式モノづくり学校(DJIME)を開校しました。
選抜された生徒を対象に、技術学校と連携して運営しています。無償で空調の据付や修理及び保守の技術を教えています。
インドの特に貧困層や地方都市では、今なお伝統的に男性と比べて女性の技術・製造分野における教育機会や社会進出が限られています。
ダイキンがジェンダー・ダイバーシティをリードし、女性の社会進出にも貢献していきたいという思いから、DJIME第一期生は全員が女性でした。
また、今後数十年間で空調機の需要が飛躍的に拡大すると予測されていますので、エンジニアのスキル向上、トレーニング強化を図り、2025年度には15万人の空調エンジニアを育成する計画です。今後、このような人材育成の取組はアフリカにも展開していく予定です。
空気だより:
大変参考になります。ダイキンは売って終わりではなく、アフターサービスも充実している背景にはこのような努力があったのですね。最後に、今後のダイキンインドの展望をご教示ください。
安藤副支配人:
2023年、インドの人口が14億人を超え、ついに世界最多になりました。インドの空調規模は2030年に2020年比4倍に予想(IEA推計)されており、世界で最も空調需要が拡大する市場です。一方で、インドでは空調機の普及が進んでいるものの、エアコンを持っていない人が人口の大半を占め、普及率はわずか6~7%にすぎません。
つまり、事業拡大の可能性は無限大とも言えます。加えて、現地の地政学的経済的情勢から考えてもインドにはチャンスが溢れています。
ダイキンインドは高品質な商品を手ごろな価格で提供する“アフォーダブルプレミアム”を目指しています。インド発の差別化商品のさらなる開発、生産能力の増強、部品の現地調達力向上、他社を圧倒する販売網の活用を行っていきます。
そして、インドだけでなくアフリカをはじめグローバルサウスと言われる地域への輸出事業を強化していきたいと考えています。
空気だより:とても大きなビジョンをお持ちですね。無限の可能性を感じます。今後のダイキンのインド事業の成功を心よりお祈りいたします。
最後に、これからインドへ進出する方向けに何かメッセージを頂けますか。
安藤副支配人:
インド市場は本当にポテンシャルに溢れています。失敗しても、次のチャンスが転がっています。参入障壁はないと考えてよいと思います。
ダイキンは参入当初うまくいかない時期もありましたが、頼りになる現地パートナーを得て、好転しました。日本のやり方をインド流にアレンジし、現地のキーマンと協力していくことが重要です。チャンスしかないと言っても過言ではないインドマーケットで是非一緒にチャレンジしましょう!!
空気だより:成功の裏側には様々な秘話があったことを知りました。是非、今後とも、現地の方々と共にインドマーケットを盛り上げていってください!
~編集後記~
ダイキンのインドでの大きな飛躍には経営者層の先見の明、現場での弛まぬ努力により現在の生産体制・販売網に繋がってきたのだと感動しました。また、現地でインドの空調市場の成長を支えてくださっている安藤副支配人やネサールGMのご尽力に感謝いたします。
今後のお二人の更なるご活躍とインド市場の成長が楽しみでなりません。
次回もお楽しみにしてください。