DX推進は企業の喫緊の課題となっています。ダイキンでは自前でのDX人材育成に力をいれています。また、日経クロストレンド「今後伸びるビジネス」ランキング2023年上半期にて生成AI(ChatGPTなど)が初登場し、ジャンル別将来性スコアで2位にランクインしました。今回は、ダイキンのDX・AIを活用した取り組みの第一人者で比戸技師長へのインタビューをお届けします!
お話しを伺ったのは、
◤比戸将平さん◢
ダイキン工業テクノロジー・イノベーションセンター 技師長
2022年まで日本のユニコーン企業において時価総額1位を誇るAIスタートアップに在籍して
いたAIのプロフェッショナル
■なぜダイキン工業に入社されたのでしょうか?
これまで製造業へのAI導入をコンサル業として“外”からサポートする機会がありましたが、導入での関与はありつつも、実際にAIが製品に搭載されるところまで深くは参画できないことが残念でした。そこで自ら事業会社の中枢に入り、事業や現場を理解した上で「現場実装」まで携わりたいと思っていたことと、ダイキン情報技術大学(Daikin Information and Communications Technology College以下DICT)の取り組みをされていたこともあり、縁あってダイキンに決めました。
(空気だより記事「モノづくりからコトづくり:DXへの道~ダイキン独自のAI・IoT人材育成」~ダイキン情報技術大学について~)
■今の業務はどのような内容でしょうか?
ひとつは施工や保守のAIを活用したDX化です。施工や保守を行う業者は不足しており、保守メンテンナンス部隊を所有しているダイキン、ひいては施工業界全体の労働人口問題解決の1つとして、シンクレットというスマートデバイスを使った現場支援を進めています。ZoomやMicrosoft Teamsでつなぎ、初心者にリモートで熟練者が直接画像を見ながらアドバイスができる体制構築の中で、動画認識の技術を入れてAIが自動で教える機能へのアップグレードを進めています。
(空気だより記事「未来を創造してみよう!」~シンクレットについて~)
もう一つはAIを活用した設計・開発の効率化です。膨大な量のデータ処理を必要とする設計の作業効率を上げる為に生成AIを活用することで、設計者の時間をその他の思考投入に充てられるようにしていきたいと思います。
あとは社内にいるDX人材のレベル引き上げとして、DICTにも関わっています。
■ダイキンで成し遂げたい事はどんなことですか?
ダイキンへ入社を決めた理由である「現場実装」というところにこだわっていきたいと思っています。
実際に様々な部署と関わっていく中で、AI領域で貢献できることはたくさんあると思っています。異なったシステムを縫い合わせていくようなことや、個人的に興味のあるサプライチェーン分野でもゆくゆくは貢献したいと思っています。
■気づき、もしくは課題と感じていること何でしょうか?
気づきとしては2つあります。
1つは事業会社とコンサルの違いです。コンサル業界では課題を見つけ、解決方法を示しますが、推進者名を入れることはありません。しかしダイキン(事業会社)では、こうすべきだというようなポートフォリオを作っていくと、「誰がやるねん?」と実行する担当者まで落とし込むことを前提としての進めることが求められます。それはとても新鮮でした。
2つ目はダイキンの経営理念に「フラット&スピード」とありますが、草の根的に同じような事象に対して多角的に検討、改善活動が自発的に起こり、進めて行くボトムアップ型の風土は強みでもあると実感しました。経験上、トップダウン型で事前に関連部門を集めて、作り上げていくようにすると次のアクションまでに時間がかかり、競争に遅れをとってしまいますよね。
課題としては、DICTなどの取り組みでDX人材は育ってきているものの、具体的に何をやるのかという企画が追いついていないことがあります。ひとえにDX人材と言えども、やはりダイキン社内で活用できなければ意味がありません。自社の課題を見つけ、デジタルで解決できるようになることが求められます。
そこで今、DICT修了生に伝えていることは、「現場を知ろう!」ということです。現場を知らないと、どこに問題があるか?何があればAIを活用して改善できるのか?ということを考えられないからです。
■今後の私たちを取り巻くAIの未来はどのようになっていくと思いますか?
私見となりますが、AIに入力する情報のパブリック(公共)とプライベート(私的)の違いが重要になってくると思います。画像生成AIが注目を集めていますが、それはインターネット上のパブリックな画像を集めて学習されています。OpenAIのGPTなどの生成AIもパブリックな情報や書籍が元になっていて、これからもどんどん賢くなっていきますが、その延長線上で何でもできるようになるかというと限界があります。特定用途で個人宅や企業内に留まっているプライベートな情報は、そのままでは学習されないからです。そのような価値の高いプライベートな情報をもつ個人や企業はそれをどのように活かすか、パブリックな情報を元に学習されたAIとどう組み合わせるかを考えていくことになると思います。
■今後、AIと人の価値はどうなっていくと考えますか?
膨大なデータを処理し、データに基づいて判断することについてはAIの方が得意です。記憶や知識などの部分ではAIを活用してコストが下がっていくのではないかと思います。
ただ莫大なデータを解析しようと思うと時間も費用もかかりますから、「この目的を達成するならこれくらいのデータで十分」と範囲を指定するのは、経験とノウハウがある人で行う方がコストを減らせるという価値を出せると思っています。
ちなみに今の小中学生と話しているとき、「勉強をしなさい」と言うことについて迷いを感じています。知識の積み重ねはAIに敵わないので、旧来の知識偏重型の勉強が重要という今の価値観が変わってくるかもしれないからです。もしかしたら人の得意とするしなやかな動作・肉体の価値が上がってくるかもしれませんね。
~編集後記~
データの価値変容から、ひいては人の肉体の価値が変わるというお話は、とても興味深かったです。また、現場としてはDXの恩恵と、旧来のやり方でギャップやもどかしさを感じている部分でもあります。当社は今年100周年を迎えますが、温故知新だけではなく不易流行の視点を持って、日々新しいことを取り入れながら次の100年を切り拓いていきたいと改めて思いました。
次回テーマは冷媒転換による地球温暖化抑制についてです。お楽しみに!
関連リンク
・日経クロストレンド
「今後伸びるビジネス」ランキング(トレンドマップ2023年上半期)を発表!2023年5月23日(株式会社 日経BP)